2014年6月29日日曜日

学会に出席

 


またまた更新をさぼってしまいました。
ワールドカップで日本の敗退が決まってからきっかり昨日まで落ち込んでいました。と言っても俄かサッカーファンです。それでも最近は暇な時に地元J2チームの試合をテレビ観戦するくらいのことはします。で、やっぱり昨晩のブラジル‐チリ戦のような死闘を見るとJ2の試合は物足りなく感じたりします。俄かゆえのいい加減さでしょうが。
さて今回は、14日から行ってきた「顎咬合学会」について話します。私が加入している数少ない学会のうちの一つです。この学会の特徴は、顎咬合学会と称しているものの、咬合論に限らず幅広く歯科診療にかかわるトピックをカバーするような演題が多いこと、その演題が比較的臨床的で、私たちの日々の仕事に取り入れやすい内容のものが多いこと、斯界の権威を多く集めて、多岐にわたる特別講演や指定講演を企画すること、などでしょうか。一般公演の演者もほとんどが、いわゆる街の歯医者さんです。

今回私が聴いたのは、南カリフォルニア大学のPascal Magne先生のNo-post no-crown restorative dentistry in the anterior dentition」、「口腔内科」と銘打って企画された、元国立予防衛生研究所の武内博朗先生の「咀嚼機能回復が体組成・代謝の改善に及ぼす影響」、鶴見大学の花田信弘先生の「虚弱高齢者と口腔保健の関係」、日本歯科大学の小林義典先生の「健康な咀嚼機能を営む有歯顎の咬合」、これらをメインに、あとは顎関節症についての小さな講演をいくつか渉猟しました。
Magne先生の講演は、「前めの歯は、審美性が大事だがセラミックの歯では高額だし、レジン修復がお勧め。大きな力のかかる場合はマウスプロテクターを夜間に使用してもらって壊れるのを防ごう」と、ごくごく大ざっぱに要約したらこのような内容でした。患者さんによっては使用してもらえないこともあるので、私はどちらかというとマウスプロテクターに頼ることに躊躇を感じています。なので多少疑問の残る講演内容でしたが、日本と違って欧米では歴史の浅いレジンによる臼歯部の直接修復が、現在ではかなり普及している様子が垣間見られ、興味深く感じました。
もうひとつの指定講演「口腔内科」、これは当たりでした。武内先生の講演では、歯周炎由来の細菌が循環器障害、糖尿病の重要な原因の一つだと言うことが解説され、歯周炎の改善、咀嚼機能の回復と栄養指導の組み合わせは、理想的な健康づくりのためのサービスとなりうる、というものでした。
花田先生の講演でも、高血圧症をはじめとする多因子疾患としての生活習慣病に対し、虫歯と歯周炎は除去すべき重要な危険因子であり、対症療法に過ぎない降圧剤などの投薬治療に代わって、歯科治療や口腔ケア、生活指導を併せて行うべきだ、と解説されました。中でも高齢者の健康に焦点を当て、最近話題のサルコペニア・ロコモーティブシンドロームと歯科疾患の関連への言及は大変興味深い内容でした。
二十年ほど前から、循環器疾患や糖尿病は、歯周炎や虫歯由来の細菌がその原因の一つではないかといわれていました。個人的には、このような説は未だエビデンスに乏しいと考え、患者さんにお話しすることを控えていました。しかしここにきて基礎的な成果が積み上がり、この説も説得力を増しつつあるようです。両名とも独自の基礎的な資料を豊富に提供され、たいへん迫力のある講演でした。
小林義典先生は、顎関節症と顎位の関係について実証的に解明された先生です。学生時代にその論文を読み、咬合学に興味を持つきっかけとなりました。しかしなにしろ実験が非常に困難な分野らしく、なかなかエビデンスがそろわないことで、特にアメリカでは咬合と顎関節症は関連しないのではないかという論調が強く、一般的には小林先生の説は否定された格好です。
 その恨みつらみがあるわけではないでしょうが、否定論に対する再反論が、もうすごい迫力でした。実験的データはもちろん豊富に持っておられるわけで、それらを次々と繰り出して否定論者を次々と論破し、最後には怒鳴り始めるんじゃないかという勢いでした。なによりその様子が面白かった(笑)。
顎位、咬合と顎関節症の関連は、正式には否定されていることはその通りです。でも咬合学や歯科補綴学(しかほてつがく、と読みます)の研究者にこっそり聞くと、否定する人はいません。なぜだかはよく分かりません。


さて、今回の学会への旅行は、スタッフの慰安旅行も兼ねて行いました。押上の東京スカイツリーに登ってみたり、ヘリコプター遊覧をしてみたり、東京観光というものをはじめて体験しました。私が学会会場にいる間、スタッフたちは銀座で買い物をしてみたり遊覧船に乗ってみたり、それぞれ楽しんでくれたようです。また行きたそうにしていますが、予算の都合というものがあり、そうはいきません。

2014年6月9日月曜日

咬みあわせ 2


前回は「中心咬合位」の話をしました。これは今回お話しする側方位、前方位と併せて、学部教育の時点で叩き込まれる基礎的かつ重要な概念です。

②側方位
中心咬合位、つまり上下の歯がしっかり噛み合った状態をとってみてください。そこから上下の歯ができるだけ接したまま、下顎を右に、真横に動かしてみてください。多くの場合は左半分の歯は上下が離れるはずです。右の歯では犬歯のみか、犬歯と臼歯の一部、あるいは犬歯と臼歯全部が接しているはずです。
このように下顎を横にずらすような動きを「側方運動」と言います。上記のように下顎を右に動かした場合を「右側方運動」と言い、右側方運動を3mm程度行った時の下あごの位置を「右側方位」と言います。またこの3mmほどの過程で本来接触してはいけない歯の接触を「側方位早期接触」と言います。
③前方位      
今度は中心咬合位から、上下の歯ができるだけ接したまま、下顎を前にずらしてみましょう。この位置では上下の前歯の、それぞれ2ないし4本が上下で接し、残りの歯は離れてしまうことがほとんどです。
このように下顎が前に動くことを「前方運動」と言います。3mmほど前方運動を行った下顎の位置を「前方位」と言います。この位置では上下の中切歯は、その先端で接することが多いようです。側方位の場合と同じように、前方運動の過程で、本来接触してはいけない上下の歯の接触を「前方位早期接触」と言います。

側方位と前方位での上下の歯の接し方は、人によって様々ですが、臨床上、3つか4つの様式に分類されます。そのような様式を「咬合様式」と呼びます。
念のため申し添えておきます。上記のような咬合運動は、私たちが例えばものを食べるときに、つねに発現するものではありません。ただ瞬間的には発現しています。ただ就眠中の歯ぎしりでは、咬合運動に近い動きをしているようです。
中心咬合位早期接触と同様、側方位早期接触、前方位早期接触も、歯や顎関節にダメージを与えます。そのため、私たちが歯に金属冠をかぶせたり義歯を装着するとき、あらゆる早期接触がないよう、慎重に調整を行うことは前回もちょっと触れました。

こりゃ、図か写真がないとわかりませんね。
次回は咬合の話を離れるつもりですので、次々回までに何か用意します。

2014年6月1日日曜日

咬みあわせ 1

 
さて、前回の書き込みからおよそ半年が過ぎました(笑)。そろそろ、もっとも気が重いテーマについて書こうと思います。 「咬み合わせ」について。咬み合わせは、言ってみれば下顎の単なる関節運動なのですが、昔から多くの学説が乱立し、しかもなかなかエビデンスのとれない分野です。しかも歯の治療の際、決して無視することのできない、厄介な事だったりします。 とりあえず今回から、専門的になりすぎない範囲で咬み合せの基本的な事柄を説明したいと思います(正確には、「咬合」と「下顎運動」についての話です)。 ①中心咬合位 一般に、上下の歯列がしっかりと咬み合った位置を、下顎の「中心咬合位」と言います。きれいな歯並びの場合、すべての歯がしっかりと咬み合い、咬む力を分散します。ところが、たとえば1本の歯がわずかに歯列から飛び出している場合、その歯だけにかむ力のすべてがかかり、大きなダメージを受けます。カチンと噛んだとき、その歯は対向する歯と早めに接触するわけで、このような状態を「中心位早期接触」と言います。 中心位早期接触は、歯列不正、歯の長年使用による磨耗などによっても起こりえますが、私たち歯科医が最も注意しなければならないのが、金属冠やレジンで歯を修復する場合です。例えば奥歯に金属冠をかぶせるとき、経験された方もいらっしゃると思いますが、薄いカーボンペーパーやワックスを何度も噛んでもらって、慎重にあたりを削っていきます。 また金属冠が正確な咬み合せで装着されたとしても、歯列全体の長年の磨耗の結果、金属の部分だけが高くなってしまうということもあり得ます。このような場合は、定期的に金属冠の部分を削って調整するしかありません。 中心咬合位早期接触があったとき、もし歯周炎があれば炎症が急速に悪化しますし、骨植のしっかりした歯だと割れたりします。またダメージは歯だけでなく、顎の関節に及んだりします。これを「顎関節症」と言います。顎関節症の病因と治療法についてはあまりにエビデンスがなく、語りづらい分野ですが、咬合が引き起こす障害として、がんばって後に書こうと思っています。 次回も咬み合せの話を続けます。