2013年9月29日日曜日

インプラントのトラブル⑤

 NHKの番組の視聴率が9.5%だったことは前にも述べました。担当ディレクターの感覚としては低視聴率だったのかもしれませんが、考えてみると、いまどきそう低い値でもなさそうです。一方雑誌でも、「もうダマされない!歯医者の裏側」などという特集が組まれたりして、まぁ昔からですが歯医者の金もうけ主義への風当たりは決して弱くありません。
 ただ、患者さんのインプラント治療に対する満足度は、高額にもかかわらず非常に高く、どのデータを見ても95%を下回ることはありません。インプラントがなくなることはないと思います。
 インプラントのトラブルから私自身への戒めとして学んだことは、以下のようなことでしょうか。
・インプラント治療に際しては、術式、費用を含め、事前にしっかりと説明をする。
・患者さんの体調も含め、正確な診査と診断をおこなう。
・自らの技術の限界を明確に認識する。限界を超える症例については、適切な紹介先を確保する。
・技術と知識の研鑽を怠らない。
 この2年弱、私がインプラントを巡るトラブルについて考えたあげく、出た結論があまりに平凡で私自身、やや拍子抜けです。インプラントに関しては初級者クラスですから、当然でしょうか。
 では私のような初級者クラスがなぜインプラントに取り組んでいるのかをお話ししておきます。
 インプラントの大きな利点は、確実な咬合支持と審美性にあると考えています。このうち審美性は上級者クラスがあつかう問題ですので、割愛します。
 たとえば下顎の奥歯をすべて失った場合、ほおっておくと前歯に異常な力がかかり、やがて前歯も失うことになります。一般的には義歯を作って対処しますが、義歯の乗る顎の土手の部分が年々低くなる、人工歯が擦り減っていく、などの問題は避けられません。対処する方法はあるのですが、半年から23年ごとの修理や再製作が避けられません。何らかの事情で患者さんがメインテナンスに来院できなくなった場合、残りの歯の状態が壊滅的に悪化していたなんてことはよくあります。
 その点、インプラントであれば、メインテナンスが必要なことは同じですが、修理や再製作の頻度は低く、メインテナンスではPMTCと呼ばれる歯の掃除や歯磨きの練習がメインで、手間もかかりません。


 このことは、歯周炎の患者さんにとっては大きな意味を持ちますので、後々述べてみたいと思います。

2013年9月24日火曜日

インプラントのトラブル④


 インプラントの専門学会として、例えば歯の欠損をいかにしておぎなうかという観点(歯科補綴学といいます)から研究している歯科医師が中心の日本口腔インプラント学会、口腔外科が専門の歯科医師中心の日本顎顔面インプラント学会があります。この2学会が中心となって最近のトラブルや、報道などに対応しているようです。
 診療ガイドラインも2学会が中心となって計画しているようです。ガイドラインはすでに歯科関係でも14ほど存在するようですが、インプラント治療のガイドラインは未だ作成されていません。
 なぜでしょうか。推測にすぎませんが、
①治療が一般に行われるようになったのが1980年代半ばと比較的歴史が浅い。上記2学会の成立もそれ以降である。
②ほとんどの場合が保険診療の適用外である。
などが原因と思われます。


私はガイドラインの作成に、もちろんかかわったことなどないのですが、加入する学会がガイドラインを作成する際、その苦労をある委員から聞いたことがあります。一般には、ガイドライン全体のデザインから始まり、いわゆるEBMにもとづく論文の収集と評価、また必要なデータの収集等を行い、完成した後に一定の基準で評価を行います。予備的な調査から始まって、数年がかりだということでした。もちろん論文は世界中から集めるのですが、各学会で相当の論文の蓄積がないとデザインを決める過程から困難があるそうです。
さらに、多くの診療ガイドラインは保険診療に採用されたか、保険診療で使用する機器、薬剤、方法などが変更されたなどの際行われます。インプラントでは顎腫瘍切除に伴う場合など、かなり限られた場合でないと保険が適用されません。それやこれやで作成が遅れたと思われます。
現在のところ、各学会が専門医制度を持っています。さらに、患者さん向けの相談窓口を設けたり、インプラント手帳というものを作成して患者さんに自身の情報を把握してもらう努力などがなされています。患者さん側からも評価をいただける事業だと思います。
ただ、一介の開業医として基礎的なインプラントを細々とやっている、私のような歯科医師の立場としては、やはり一刻も早くガイドラインを作ってほしいものです。自らの仕事を検証する基準になりますし、患者さんに説明する際の基準ともなるだろうからです。

2013年9月18日水曜日

インプラントのトラブル③


前回はくどい投稿になってしまいました。要するにインプラント治療の際重要なのは、困難症例を見極める、術後の口腔ケアをしっかりやる、この2点です。あと、高齢化に伴う口腔環境の変化については、今後の大問題と思われます。
さて、Quintessence Dental Implantologyという雑誌があります。日本の業界誌です。今年の1月号に興味をそそる記事が掲載されました。NHKクローズアップ現代「歯科インプラント トラブル急増の理由」を企画担当した米原達生氏へのインタビューです。米原氏は取材を重ねるうちに国民生活センターの報告とほぼ同じ問題点を認識されたようです。したがって氏の提言も、国民生活センターの「要望」等と一致します。
それより米原氏の直の言葉が面白い。抜粋して私の感想を付け加えてみます。

「むしろ経験豊富な歯科医師のもとで無理な治療、無謀な治療を受けトラブルになっている。しかも、歯科医師側からインプラントを勧められたケースがほとんど」
 経験豊富、という言葉が単に長年歯科医師をやっている、くらいの意味なら、まあわかりますが・・・。ちょっと私の予想に反する事実です。

「(NHKに寄せられた反響は)どちらかというと無風に近いものでした。(略)直接の批判というのは想像以上に少なかったです。」
 無茶なインプラントが歯科界では一部問題視されていましたから、賛否両論あったのは想像できますが、それにしても無風とは・・・。

「ちなみにあの回の視聴率は9.5%だったのですが、これは『クローズアップ現代』の中では比較的低い数字です。(略)低視聴率は覚悟していました。」
 あの放送の影響を私たちは診療室で強く受けています。でも一般のかたの関心は低かったと。テレビの強い影響力に驚嘆するばかりです。 

「(応援メッセージで)もっとも反応があったのは歯科衛生士です。(略)『患者さんへの説明会を開催しているが、参加者にインプラントの契約をさせるための流れがマニュアルとして出来上がっている。(略)』。」
 そうなんだ(笑)。ちょっとそのマニュアルを見てみたい気もします。

「インプラント治療を経験したことがある人たち、受けたことがある人たちの反応は、より具体的で(略)、現状ではどの歯科医院に行けばいいかわからないと言われました。」
「患者目線の安心は、医療の安全よりもつねに高い位置にあります。現在のインプラント治療を見ていると、患者さんの立場からするとわからない点が多く、安心を得られる状況にはありません。」


 ここから専門医制度の確立とガイドラインの整備の必要性が提言されていくわけです。これを受けて専門科学会も動き出しているようですが、まだまだ問題点もはらんでいるようです。
 最後に、ちょっと怖い歯医者さんの画像を見つけましたので、貼ってみます。

2013年9月16日月曜日

インプラントのトラブル②


  インプラントの件は、3回位の投稿で片付けるつもりでしたが、長くなりそうです。
6回くらいかかるでしょうか。と言うことで、緊急投稿です。


 口腔外科専門医の知人にいくつかのことを教えてもらったことは前回お話ししました。それに解説を加えていきます。彼らが示唆したのは、以下の問題点です。
①骨の幅が狭い、または十分な高さがない場合。
 通常の方法ではインプラントを打ち込めない場合があります。このようなとき、骨再生誘導法(GBR)とか、スプリットクレスト、サイナスリフトなど、いわゆる補助手術が必要です。詳しくはリンク先を参照してください。外科的な侵襲が大きいこと、手術の回数が増えること、いわゆる歯科的な小手術と術式が大きく異なること、などから、私の感覚では専門医の守備範囲と考えています。私の場合は口腔外科専門医に手術を願いします。
②無歯顎(歯が一本もない状態)にインプラント
 無歯顎の場合は、長い間の歯周炎のあげく無歯顎になった場合や、長い間義歯を使用していた場合など、①の場合と同様に広範囲で骨の量が足りなくなったりします。このような場合はもちろん補助手術が必要です。必要ない場合もありますが。その後複数のインプラントを打ち込み、歯の部分は上下それぞれ連結して、一体のものを入れます。
この連結、というのが問題で、このように大変うまくいった場合はともかく、例えば5本の連結されたインプラントのうち1本がダメになっても、とりあえずは噛めたりします。もちろん痛かったり腫れたりもしますが。でも治療としては、歯の部分を全部はずして傷んだインプラントの部分を治療し、改めて歯の部分を装着する、といった大規模な修理が必要な場合もあります。最初と異なる歯科医院でこのような治療を行った場合、そこそこ高額な費用がかかるわけです。患者さんとしては治療をしたくないと思うのも、まぁ理解できます。
さらに、このような症例では、治療自体は大変うまくいったとしても、もとの条件が良くない訳ですから、その後の手入れが悪いと劇的に不具合が進行する場合があります。そのためにインプラントを行っている歯科医院では通常定期的なメインテナンスを行っています。メインテナンスの中断は、病院側の都合とか、患者さん側の都合とか様々でしょうが、とにかく大規模なインプラントの後に、メインテナンスの中断は大変まずいと考えています。いや、1本のインプラントでさえまずい場合が沢山あります。
③露出したり傾いたりしているインプラント
 手術がまずかった場合もあるでしょうが、高齢の患者さん、しかも訪問診療の場面で時々遭遇します。恐らくは20年から30年以上、問題なく使用されていたのでしょう。それが重い要介護状態になられ、歯みがきが不十分となり、歯科医院でのメインテナンスもできなくなったあげく、このような状態なったと推測できます。このような場合は訪問診療とか訪問口腔衛生指導などで対応しますが、認知症が重い場合など、それすらも不可能なことがあります。これは今後の、大きな課題になるだろうと思います。
④骨粗鬆症に注意。治療薬が長期間作用型になりつつある
 骨粗鬆症の治療で、おもに使用されている薬は顎骨壊死を起こすと言われています。これはインプラント手術の際まずいので、服用を開始する前に手術をするか、服用を一時中断してもらうしかありません。ところが最近は、効果が1年も持続する薬があります。ということは、服用をいったん中止してもらい、1年後にやっと手術できる勘定になります。さすがに骨粗鬆症にとっては良くないでしょうし、1年後にインプラント手術を、と言われても患者さんも戸惑うと思います。



なんとか解説ができました。少しくどかったでしょうか?次回は関連学会の対応を中心にお話しします。

インプラントのトラブル①


 さて、国民生活センター発表の、「歯科インプラント治療に係る問題-身体的トラブルを中心に-」から。ここで重要視されているのは、①相談件数のうち約7割が50万円以上の高価な契約だった。②痛みを中心とした身体症状が75.5%あり、そのうち41.6%は、症状が1年以上継続た。・・・等々です。高価な治療にもかかわらず、痛みが長引く等のトラブルが多いというわけです。この数字はちょっと驚きました。正直、私もインプラントでのトラブルを経験しています。それは上部構造(歯冠の部分)の破損と、上部構造とインプラントをつなぐネジの緩みなど数件で、痛みや腫れが数カ月に及ぶことは、現代のインプラントでは考えられないと思っていました。
 そこで口腔外科専門医の知人数名に、どういうわけで上記のようなトラブルになるのか、機会のある度に聞いてみました。彼らは大学病院や総合病院で診療しており、他の施設でのトラブルに対応することも少なくありません。すべて雑談としての質問でしたので、データがあるわけではないのですが、その分彼らの皮膚感覚に近いと思います。
 すなわち、
「十分な骨の量のある部分に、方向を間違わずに打ち込めばインプラントのトラブルはない。またこのような標準的な症例では、あえてCTなどの特殊な画像診断も必要ない。」
「問題は骨の幅が狭い、または十分な高さがない場合。特殊な手術が必要で、CTでの診断が必要なことも多い。このような症例で骨折や、副鼻腔の炎症が治らない等のトラブルが、一定数ある。」
「無歯顎(歯が一本もない状態)にインプラントをたくさん植立して歯列を回復した場合のトラブルは、その中でもやや目立つと思う。このような場合には、インプラントを取り去って総入れ歯を使ってもらうことを勧めることもあるが、信じられないことに、入れ歯よりも便利だから多少痛くても我慢する、という人もいる。」
80歳を過ぎた方に多いのが、あごの骨の吸収に伴って大きく露出したり傾いたりしているインプラント。長期間が経過したインプラントだね。このようなインプラントでは再利用もむつかしいし、高価なだけに撤去を拒否される方も多い。要介護者では撤去すること自体が難しい場合もあるし。」
「お前がやっているような基本的なインプラントではまず問題はないよ。でも最近では骨粗鬆症に注意だね。治療薬がどんどん長期間作用型になってるし。」
 基本的な症例だけやってれば初心者レベルの私でもまぁ問題ないというわけです。ちょっと安心しました。彼らの意見は、最近の学会の論調とほぼ一致していると感じましたし、実態はこんなもんだろうと思います。
 しかしこれは解説が必要ですね。次回以降に解説を試みます。


2013年9月8日日曜日

はじめに

 はじめまして。歯科医療に関するブログを始めてみます。
 内容はもちろん、一般の方向けにします。おおむね週1の更新を目指します。
でも続ける自信が薄いので、どこにも告知せずにひっそりと始めます。
  始めるにあたり、とりあえず、
 ①メインの記事は歯科医療関係、殊に自分自身が
行っている療法を中心にする。 ②それだけでは行き詰ること必定なので、
 時に趣味である読書などの記事も混ぜる。 ③読者のコメントは、
全てに返答する自信がとてもないので、申し訳ないけど受け付けない。
などの方針を立ててみます。
  さて、ブログ開設にあたり、歯科医師としてどうしても触れなければいけないだろうと、
 この半年ほど悩んでいたのが、インプラント・トラブルの問題です。
私もインプラントは時々やります。最近は患者さんからトラブルについて
質問や意見をうかがう機会も増えました。
  事の発端は、2011年11月22日に、国民生活センターから発表された、
 「歯科インプラント治療に係る問題-身体的トラブルを中心に-」という報告書でした。
さらに、2012年1月18日にNHKで放送された、「歯科インプラント トラブル急増の理由」
という番組があり、巷間にインプラントのネガティブな面が知れ渡りました。
歯科医師の反応はと言えば、私のまわりだけかも知れませんが、
これらの報道に対する反発は意外と少ないように思います。
さらに、関連学会や業界誌に、インプラントのトラブルを
患者さん視線で見つめ直す動きが盛んに行われています。
 最近、論文や記事がほぼ出揃った気配ですので、
私なりに次回から考察してみたいと思います。
この作業は、私自身の歯科診療に対する態度を、 再確認することにもなると思います。

 多少長くなりましたが、ま、最初、ということで。