2014年12月21日日曜日

咬み合わせの治療 2


 
いつもの事ですが1箇月余りもさぼってしまいました。クリスマスもお正月も怒涛のように差し迫っています。いつものように何もしないまま1年が過ぎようとしていて、いつものように焦るという、まことに進歩のない年末を迎えてしまいました。ブログを始めた時は、1年も続ければ書く事がなくなってしまうだろうと考えていましたが、もうしばらくは続けられそうな気がします。すっかり更新をさぼったせいで空疎なブログになってしまったからですが。
さて、咬み合わせの治療の話です。前回、大ざっぱにいえば咬み合わせの障害は、くいしばり癖や歯ぎしりによっておこるとお話ししました。まず顎関節症について、最近出版された本に依って話します。


木野孔司先生のTCHのコントロールで治す顎関節症」という本が出版されました。木野先生によると強い力でのくいしばりや歯ぎしりではなく、日常的に上下の歯を咬み合わせる癖が筋肉や顎の関節に障害をきたすらしいです。しかもこれは咬合の問題ではなく、精神的要因、行動要因らしいです。
びっくりしました。顎関節症が多因子疾患であり、精神的要因や行動要因も寄与していることは何となく聞いていましたが、単にかみ合わせる癖が精神的、行動要因だとは考えてもみませんでした。
興味深いことに、咬合異常や他の悪習癖がある場合でも、日常的な咬み合わせ癖を治すと、痛みなどの症状が改善することが多いことです。つまり顎関節の外傷や変形などの要因によるもの以外は、顎関節症は咬み合わせ癖を治せば多くの場合改善するということです。

従って、顎関節症の治療はまっさきに咬み合わせ癖を見つけ、是正することが大切であるということになります。咬み合わせ癖は、前述のように「行動要因」ですから、その治療のためには「行動変容法」を応用します。
過去にも顎関節症に「行動変容法」を試みた報告も結構出ていますが、結果はいま一つのようでした。いま思えば、寝ている間の食いしばりとか歯ぎしりを行動療法で何とかしようとしていたものですからそう簡単にわけがありません。それでも他の心理療法なども併用して効果をあげている先生もいました。私も、20年ほど前に試したことがありましたが、惨憺たる結果に終わりました。私はこの分野については、大学の教養科目として受講した記憶がおぼろげにある程度でしたから、うまくいかなくて当たり前でした。

ところが、木野先生の方法は、行動療法をメインに治療を進めます。つまり「どうやって悪い癖をとるか」という事を考えます。しかも睡眠中の悪習癖はあまり問題にしません。詳細は控えますが、診査から診断、治療まで、実にシンプルに組み立てられています。場合によって運動療法なども併用しますが、あまり複雑なのはありません。これなら私にもできそうです。

さっそく2名ほどに試しましたが、確かに効果があるばかりでなく、痛みなどの症状の消失が、従来の方法と比べて速いのに驚きました。とりあえずは従来法と併用して少しずつ習得していこうと思っています。

(なんかフォントの調節がうまくいきません。見苦しいですが、このまま掲載します)

2014年11月10日月曜日

咬み合わせの治療 1

 
 前回お話ししましたがカロナール500㎎の錠剤が発売予定だそうです。パンフレットをもらったので貼っておきます。で、何しろ大きい!長径17㎜余りもある長楕円形です。これを2錠のむのは、きゃしゃなお年寄りなどにはちょっと苦痛じゃないでしょうか。歯科麻酔学会での講演に影響されて、鎮痛剤は基本的にカロナール500㎎にしようかと考えていたのですが、躊躇してしまう大きさですね。サンプルをもらってから考えようと思います。

 さて、咬み合わせの話に、久々にもどります。
 まずは軽くおさらいです。
・咬み合わせで私たちが注目するのは、上下の歯がしっかりと咬み合った状態,
「中心咬合位」だけでなく、下顎が前後左右に動いた位置での上下の歯の接触状態です。
・それぞれの下顎位で有害な接触(早期接触)があると、歯や歯周組織にダメージをきた   すことがあります。
・それだけでなく顎関節症がおこるかもしれません(エビデンスが不足していますが)。
・特に強大な咬合力の場合は、このような障害がおこりやすいと思われます。また強大な   咬合力は、多くは睡眠中の歯ぎしりによって起こります。

そこで上下の歯の接触状態を、歯を削ったり、レジンを盛って調整したりもします。これを「咬合調整」と言います。
多数歯を修復する場合以外では、咬合調整は痛みや動揺などの症状が出ているときのみ、最小限度しか行いません。理由は、私は矯正ができないので根本的な歯列の再配列ができないことがひとつ。また年輩の方で咬合に異常がある場合、歯の摩耗が原因であることが多く、たとえ咬合調整を大々的に行っても、いずれ摩耗して異常な咬合に戻ってしまうことが予想されるからです。
それでは根本的な治療になりませんね。
根本的には、咬み合わせを改善して、歯の移動や摩耗を防止するために強大な咬合力を緩和する必要があります。

 これがむつかしい。歯ぎしりをどうやってやめさせるか、という問題です。付け加えるなら、すごい力仕事をしている方も問題です。スポーツ選手などです。昔から、自己暗示法とか、催眠療法とか、心理学的手法を中心にいろいろと試みられてきましたが、いい結果を得ることができなかったようです。
 

 最近、有害な咬合力をコントロールして、主に顎関節症を治療するこころみが公開されました。本も出ましたが、長くなりそうなのでその話は次回にします。

2014年11月4日火曜日

アセトアミノフェン

 


 早いもので、今年も2カ月を残すのみとなりました。ここ数日はそこそこ暖かく、秋の気配も薄感じがします。
 先週はテレビで何故か歯科が取り上げられることが多くちょっと驚きでした。
NHKの「サキどり↑」では1026日放送
27日は「プロフェッショナル 仕事の流儀」
熊谷先生の予防歯科に関するお考えは、現在ゴールドスタンダードと言っていいと思います。
 また27日、TBSの「釣り刑事5では、IZAMさんが歯科医師役として登場しています。
ちらっと見ただけで詳細は知りません。犯人だったのでしょうか?

 さて、歯科麻酔学会の話に戻ります。獨協医科大学 麻酔学講座の山口重樹教授による、
「鎮痛薬としてのアセトアミノフェンの役割」
という講演を聞きました。「私は留学中、歯が痛いときにアセトアミノフェンしかのまなかった!」らしいです。アセトアミノフェンへの偏愛がうかがうことができて、ある意味ほほえましい講演でした。

 鎮痛薬は、どの診療科でも「非ステロイド鎮痛消炎薬」、NSAIDsが最もよく使われています。ロキソニンなどですね。NSAIDsも歴史が古いので副作用もよく理解されているのですが、高齢者、脳血管障害患者、循環器疾患患者など、リスクのある場合には問題となります。

 そこで100年以上も前に開発された痛み止めである、アセトアミノフェンが見直されています。これはNSAIDsと作用機序が違うため、上記のような患者さんにも安全に使ってもらえることが多いようです。今回の講演内容からも、高齢者、胃潰瘍の既往、降圧剤の服用、小児、妊産婦の場合には第1選択薬とすること、無効であっても増量で対応し、NSAIDsへの変更は慎重に行うことが推奨されるとのことでした。
 またアスピリン喘息など、いわゆるNSAIDs過敏症の場合、添付文書では未だに投与禁忌となっていますが、作用機序の違いから本当は問題がないようですし、実際にもこのような患者さんに多く処方されているようです。

 昨年、1日あたりの最大投与量が見なおされ、解熱目的では1,500mg、鎮痛目的では4,000mgとなりました。従来の34倍です。個人的には使いやすくなったなと思っています。
 錠剤はカロナールがあり、投与量の変更にともない500mgの錠剤が発売予定です。さらに、注射薬も発売予定のようです。

 たまたま先週いらした患者さんです。80代男性で、脳卒中後遺症、膝関節症、風邪で、それぞれ別個の診療所に通っていらっしゃるものですから、頭痛にロキソニン、膝痛にロキソニン、のどの鎮痛消炎にロキソニンと、重複処方されていました。私のところでは抜歯が必要だったのですが、抜歯後の鎮痛にも普通はロキソニンを出します。そうするとこの患者さんは、1日に12錠ほども服用するかもしれません。
 のみすぎですね。副作用の一つも出現してもおかしくありません。
 さすがに当日の抜歯は見送りました。

 このように患者さんの高齢化に伴い、いろんな基礎疾患がみられることはよくあります。また場合によっては服用薬剤を確認できないこともあります。
 
 鎮痛作用の弱さとか、作用発現まで少し時間がかかるとかいった理由で私はこの薬を処方しなくなりましたが、高齢化などによる診療環境の変化から、考えなおす時期かもしれません。

2014年10月20日月曜日

歯科麻酔学会

 そろそろ鍋ものもいいなと思う今日このごろ、ということで今日の夕食はおでんにしました。 しみじみと秋を感じます。日本酒を買っとかなきゃ。

さて、先週の11日と12日に新潟での歯科麻酔学会に行ってきました。すごい台風が来てちょっと心配でしたが、結果的に無事帰ってこれました。
学会でみずから発表することがなくなって久しいのですが、歯科麻酔学のトレンドくらいは知っておきたいこと、年2回程度の学会出席で日頃の不勉強の免罪符にしたいという自らへの言いわけ、あとはちょっとした旅行が味わえるという、まぁそんな理由でこの学会にもほぼ毎年参加しています。
今回、まとまったプログラムとしては、

福井大学の重見研司教授による教育講演、「歯科麻酔に必要な循環制御入門」
神奈川歯科大学の有坂博史准教授による宿題報告、「睡眠時無呼吸症候群の周術期管理」
シンポジウムとして、「歯科麻酔を検証する歯科麻酔に望むもの

を聞きました。他に、心身障害者の全身麻酔、鎮静法や全身管理に関するポスターセッションや口演をいくつか。

 重見先生の講演は、対象を多分卒後23年目の研修医と想定しておられたと思います。循環制御は内容が多岐にわたり、かかわる薬もモニターなどの器材も多い分野です。むかし研究をしていた時、呼吸循環制御が少しだけ関係する実験内容でしたので、あれこれ論文をあさったものです。また25年ほど前に歯科麻酔認定医試験の受験勉強をしていた時に、理解するのに苦労したことも思い出したりしました。
講演ではこの複雑怪奇な現象をうまく整理されており、なおかつ新しい知見も盛り込まれており、大変勉強になりました。
 最近では循環や呼吸の問題に現場で直面することもないのですが、過去にあれだけ勉強したのに大半が忘却の彼方に消えてしまっていたことに呆然となり、早速重見先生の論文をさがし出して復習しようととりあえずウェブで検索すると、インターネットとは便利なもので、ほぼ今回の講演内容を網羅したファイルを手に入れることができました。一昔前なら考えられないことです。かなり主要な論文でも手に入れるためには大学図書館を利用するしかありませんでしたから。

 有坂先生の、睡眠時無呼吸症候群の話は私たちの日常臨床にも少し関係のある話です。それよりも私の研修医局の準教授ですので、陰ながら応援する気持ちで聞きました(いや、実際には会場にすわっていただけですが)。やっぱりCPAPが著効すること、術前の診断では顔の形態の観察が意外と役に立つこと、その他いろいろな興味深い知見を知ることができました。

 さて、会場となった大学には、「医の博物館」という小さな、しかし大変興味深い展示のある博物館があり、昔の歯科診療の器材もたくさん展示されていました。歯を削る器械、歯科用エンジンと言いますが、昔は電動式などなく、はずみ車を足踏みで廻して動力を得ていたことは、大学の1年生で教わります。その足踏み式エンジンをはじめて廻すことができました。ちょっと感動的な体験でした。


 冗長になって申し訳ありませんが、次回も学会の話を続けます。

2014年10月4日土曜日

咬み合わせと歯にかかる力 2


 台風のせいで今年は夏がなくて、梅雨から秋に移行したような天気です。皆様いかがお過ごしでしょうか。すっかりさぼり癖がついて、2か月ぶりの更新となります。

さて、前回の最後に、過大な咬合力が引き起こす歯の障害を列挙しました。いい図がありましたから、引用します。北九州の下川公一、故 筒井昌秀、奥様の筒井照子 諸先生が提唱されている Dental Compression syndrome の概念図です。

この図の中で、歯周組織つまり歯を支えるセメント質、歯根膜、骨、粘膜などにおこる障害は、

①歯槽骨の吸収、骨の増生
②辺縁歯肉の短縮
③歯根膜の肥厚および消失
④骨破壊
⑤中隔部への炎症の波及(根分岐部病変)
⑥緻密性骨炎
⑦骨梁の乱れ
などです。根尖病変も入るでしょうか。

 そしてこの歯に歯周炎があれば、一気に症状が増悪することがあります。発見が早ければ一般的な歯周炎の治療と咬み合わせの調整で、比較的短期間に改善しますが、放置しておくと歯の動揺が次第に大きくなり、抜歯のやむなきに至ることも少なくありません。全体的にはそれほど歯周炎が進行しているわけではないのに、特定の一本か二本だけが悪い場合は、咬み合わせの悪影響が強く疑われます。


 以前にお話ししたように、問題は「早期接触」です。これは、生来の歯並び、咬み合わせ状態が良くても、経年的な変化、すなわち歯の磨耗、歯の抜けたあとを放置したためにおこる歯列の乱れ、金属修復物などと歯の磨耗の差などで起こりえます。したがって、かみ合わせの様子も定期的にチェックする必要があると考えています。

2014年8月10日日曜日

咬み合わせと歯にかかる力

梅雨が明けて20日ほどたちますが、台風の影響でずっと梅雨が続いているような空模様です。昨年みたいに猛暑でないので助かっていますが、なにしろ湿度が高くて。
と、言い訳をしつつだらだらとした日々を過ごしています。このブログも週一の記載を予定していましたが、すっかり月一になり果ててしまいました。いや、がんばらねば。
前回までに咬み合わせ(つまり下顎運動)の話を終えました。咬み合わせで特に私達が注目するのは、下顎が前後左右に3㎜ほど動く範囲で、かつ上下の前歯あるいは犬歯が接触しつつ滑走するような範囲の運動です。このときの、歯にかかる力のコントロールが大変重要だといわれています。

右図は中心咬合位での、左右の臼歯部を表しています(下手なことには目をつぶってください)。歯を横から見ていると思ってください。このとき、咬む力は概ね歯の長軸方向にかかっています。理想的な歯並びだと、このように上下の歯がしっかりと咬み合い、力をうまく分散しています。また横方向にはほとんど力はかかりません。



さて、例えば下顎運動が左右どちらかに動いたとします。このとき片方の臼歯部に接触があったとします。右図のような感じです。このとき、歯には横方向に大きな力が加わります。歯とそれを支える支持組織は、横にかかる力には弱いようで、下顎運動の際、横に大きな力がかかるといろいろな障害が生じます。










まず歯そのものに生じる障害。ざっと列挙しますと、
・咬み合わせ部分の摩耗
・エナメル質のひび割れ
・歯頚部(歯冠と歯根の境目)のクサビ状欠損
・金属冠やレジンなど、修復物の破壊
・歯の破折
などなど。これは正常な咬み合わせの場合でもおこり得ますが、私の感覚では、横方向に大きな力がかかる場合に起こりがちだと思います。虫歯がないのに痛みが出るのは、上記のような原因によることも少なくありません。


次回は、この様な力がひきおこす、歯を支持している組織の障害を中心にお話しします。

2014年7月14日月曜日

咬みあわせ 補足 

なんだか最近は気になる事件が、しかも長引いていて、つい時間を費やしてしまいます。例えばSTAP細胞の騒ぎ。検証実験を秋までに行うようですが、過去のデータの検証は行わないようで、傍から見ればすっきりしない気分です。 また東京女子医大での男児死亡事故。本来乳幼児には禁忌とされているプロポフォールの過量投与が原因でした。プロポフォールは日本でも、もう20年ほど全身麻酔や精神鎮静法に使用されていて、歯科でもなじみ深い薬剤です。正しく使えば非常にいい薬で、幼児にもやむなく使用されることがあるようです。ただ今回の事件では、死亡事例があまりにも多い。いち病院で過去5年間にプロポフォール関連が疑われる死亡例が12例です。なぜこの問題は放置されていたのでしょうか。
ワールドカップは、やっと明日には終わるので、多少時間ができるかな、と(笑)。
いろんなトピックスをネットで漁っているとたちまち時間が過ぎ去っていきます。ま、おのれの自制心のなさには呆れるばかりです。

さて、咬みあわせの話です。
そういえば、もう何年か前になりますが
「かみあわせの治療がしたい」
と来院なさった患者さんがいました。以前話したように、咬みあわせが悪くて起こるのは、歯周炎の悪化、顎関節症、それに咀嚼の不具合などが考えられます。この中のどれかの症状があるんだろうな、それにしても咬みあわせの不具合に自分で気付くのはなかなか珍しいことだ、などと考えつつ患者さんと話しているうち、その方は「咬みあせ」が気になるのではなく「歯ならび」が気になっていらっしゃることに気付きました。
 「咬みあわせ」と「歯ならび」は、私たち歯科医師の中では別の問題なのですが、考えてみると「歯ならび」が悪いと「咬みあわせ」も悪いことが確かに多く、「咬みあわせ」を治すために矯正して「歯ならび」を治すこともよく行われます。漠然とは似たような意味にとらえられても仕方がないのかも知れません。
 私は矯正治療ができませんから、やむなくその患者さんには説明してお引取り願いました。

 やっと本題です。前々回に話した咬合位を、模型で示したいと思います。あまり標準的な歯ならびの模型ではないので、やや解りづらいかも知れませんが、がまんしてください。

①中心咬合位
 写真のように、中心咬合位では上顎と下顎の中心が一致します。この状態で上顎と下顎の歯は最大の面積でしっかりとかみ合います。







 
 ②側方位
写真は右側方位、つまり下顎が右に少し動いた状態を示します。
これは横から見た写真です。一般にはこのように、上下の犬歯だけが接触し、他の歯は全て離れています。










③前方位
前方位では上下の前歯4本づつが接触します。この模型では歯ならびが悪いため、そのようにはなっていません。
このとき、3番目から奥の歯はすべて離れています。










このように離れることで、顎が前後左右に動くときに大きな力が一部の歯にかかるのを防いでいるわけです。では側方位のときの犬歯、前方位のときの8本の前歯はどうなんだと思われるでしょう。
前歯と犬歯の周囲には神経終末が密に存在していて、それが大きな力がかかるのを防いでいるといわれています。

2014年6月29日日曜日

学会に出席

 


またまた更新をさぼってしまいました。
ワールドカップで日本の敗退が決まってからきっかり昨日まで落ち込んでいました。と言っても俄かサッカーファンです。それでも最近は暇な時に地元J2チームの試合をテレビ観戦するくらいのことはします。で、やっぱり昨晩のブラジル‐チリ戦のような死闘を見るとJ2の試合は物足りなく感じたりします。俄かゆえのいい加減さでしょうが。
さて今回は、14日から行ってきた「顎咬合学会」について話します。私が加入している数少ない学会のうちの一つです。この学会の特徴は、顎咬合学会と称しているものの、咬合論に限らず幅広く歯科診療にかかわるトピックをカバーするような演題が多いこと、その演題が比較的臨床的で、私たちの日々の仕事に取り入れやすい内容のものが多いこと、斯界の権威を多く集めて、多岐にわたる特別講演や指定講演を企画すること、などでしょうか。一般公演の演者もほとんどが、いわゆる街の歯医者さんです。

今回私が聴いたのは、南カリフォルニア大学のPascal Magne先生のNo-post no-crown restorative dentistry in the anterior dentition」、「口腔内科」と銘打って企画された、元国立予防衛生研究所の武内博朗先生の「咀嚼機能回復が体組成・代謝の改善に及ぼす影響」、鶴見大学の花田信弘先生の「虚弱高齢者と口腔保健の関係」、日本歯科大学の小林義典先生の「健康な咀嚼機能を営む有歯顎の咬合」、これらをメインに、あとは顎関節症についての小さな講演をいくつか渉猟しました。
Magne先生の講演は、「前めの歯は、審美性が大事だがセラミックの歯では高額だし、レジン修復がお勧め。大きな力のかかる場合はマウスプロテクターを夜間に使用してもらって壊れるのを防ごう」と、ごくごく大ざっぱに要約したらこのような内容でした。患者さんによっては使用してもらえないこともあるので、私はどちらかというとマウスプロテクターに頼ることに躊躇を感じています。なので多少疑問の残る講演内容でしたが、日本と違って欧米では歴史の浅いレジンによる臼歯部の直接修復が、現在ではかなり普及している様子が垣間見られ、興味深く感じました。
もうひとつの指定講演「口腔内科」、これは当たりでした。武内先生の講演では、歯周炎由来の細菌が循環器障害、糖尿病の重要な原因の一つだと言うことが解説され、歯周炎の改善、咀嚼機能の回復と栄養指導の組み合わせは、理想的な健康づくりのためのサービスとなりうる、というものでした。
花田先生の講演でも、高血圧症をはじめとする多因子疾患としての生活習慣病に対し、虫歯と歯周炎は除去すべき重要な危険因子であり、対症療法に過ぎない降圧剤などの投薬治療に代わって、歯科治療や口腔ケア、生活指導を併せて行うべきだ、と解説されました。中でも高齢者の健康に焦点を当て、最近話題のサルコペニア・ロコモーティブシンドロームと歯科疾患の関連への言及は大変興味深い内容でした。
二十年ほど前から、循環器疾患や糖尿病は、歯周炎や虫歯由来の細菌がその原因の一つではないかといわれていました。個人的には、このような説は未だエビデンスに乏しいと考え、患者さんにお話しすることを控えていました。しかしここにきて基礎的な成果が積み上がり、この説も説得力を増しつつあるようです。両名とも独自の基礎的な資料を豊富に提供され、たいへん迫力のある講演でした。
小林義典先生は、顎関節症と顎位の関係について実証的に解明された先生です。学生時代にその論文を読み、咬合学に興味を持つきっかけとなりました。しかしなにしろ実験が非常に困難な分野らしく、なかなかエビデンスがそろわないことで、特にアメリカでは咬合と顎関節症は関連しないのではないかという論調が強く、一般的には小林先生の説は否定された格好です。
 その恨みつらみがあるわけではないでしょうが、否定論に対する再反論が、もうすごい迫力でした。実験的データはもちろん豊富に持っておられるわけで、それらを次々と繰り出して否定論者を次々と論破し、最後には怒鳴り始めるんじゃないかという勢いでした。なによりその様子が面白かった(笑)。
顎位、咬合と顎関節症の関連は、正式には否定されていることはその通りです。でも咬合学や歯科補綴学(しかほてつがく、と読みます)の研究者にこっそり聞くと、否定する人はいません。なぜだかはよく分かりません。


さて、今回の学会への旅行は、スタッフの慰安旅行も兼ねて行いました。押上の東京スカイツリーに登ってみたり、ヘリコプター遊覧をしてみたり、東京観光というものをはじめて体験しました。私が学会会場にいる間、スタッフたちは銀座で買い物をしてみたり遊覧船に乗ってみたり、それぞれ楽しんでくれたようです。また行きたそうにしていますが、予算の都合というものがあり、そうはいきません。

2014年6月9日月曜日

咬みあわせ 2


前回は「中心咬合位」の話をしました。これは今回お話しする側方位、前方位と併せて、学部教育の時点で叩き込まれる基礎的かつ重要な概念です。

②側方位
中心咬合位、つまり上下の歯がしっかり噛み合った状態をとってみてください。そこから上下の歯ができるだけ接したまま、下顎を右に、真横に動かしてみてください。多くの場合は左半分の歯は上下が離れるはずです。右の歯では犬歯のみか、犬歯と臼歯の一部、あるいは犬歯と臼歯全部が接しているはずです。
このように下顎を横にずらすような動きを「側方運動」と言います。上記のように下顎を右に動かした場合を「右側方運動」と言い、右側方運動を3mm程度行った時の下あごの位置を「右側方位」と言います。またこの3mmほどの過程で本来接触してはいけない歯の接触を「側方位早期接触」と言います。
③前方位      
今度は中心咬合位から、上下の歯ができるだけ接したまま、下顎を前にずらしてみましょう。この位置では上下の前歯の、それぞれ2ないし4本が上下で接し、残りの歯は離れてしまうことがほとんどです。
このように下顎が前に動くことを「前方運動」と言います。3mmほど前方運動を行った下顎の位置を「前方位」と言います。この位置では上下の中切歯は、その先端で接することが多いようです。側方位の場合と同じように、前方運動の過程で、本来接触してはいけない上下の歯の接触を「前方位早期接触」と言います。

側方位と前方位での上下の歯の接し方は、人によって様々ですが、臨床上、3つか4つの様式に分類されます。そのような様式を「咬合様式」と呼びます。
念のため申し添えておきます。上記のような咬合運動は、私たちが例えばものを食べるときに、つねに発現するものではありません。ただ瞬間的には発現しています。ただ就眠中の歯ぎしりでは、咬合運動に近い動きをしているようです。
中心咬合位早期接触と同様、側方位早期接触、前方位早期接触も、歯や顎関節にダメージを与えます。そのため、私たちが歯に金属冠をかぶせたり義歯を装着するとき、あらゆる早期接触がないよう、慎重に調整を行うことは前回もちょっと触れました。

こりゃ、図か写真がないとわかりませんね。
次回は咬合の話を離れるつもりですので、次々回までに何か用意します。

2014年6月1日日曜日

咬みあわせ 1

 
さて、前回の書き込みからおよそ半年が過ぎました(笑)。そろそろ、もっとも気が重いテーマについて書こうと思います。 「咬み合わせ」について。咬み合わせは、言ってみれば下顎の単なる関節運動なのですが、昔から多くの学説が乱立し、しかもなかなかエビデンスのとれない分野です。しかも歯の治療の際、決して無視することのできない、厄介な事だったりします。 とりあえず今回から、専門的になりすぎない範囲で咬み合せの基本的な事柄を説明したいと思います(正確には、「咬合」と「下顎運動」についての話です)。 ①中心咬合位 一般に、上下の歯列がしっかりと咬み合った位置を、下顎の「中心咬合位」と言います。きれいな歯並びの場合、すべての歯がしっかりと咬み合い、咬む力を分散します。ところが、たとえば1本の歯がわずかに歯列から飛び出している場合、その歯だけにかむ力のすべてがかかり、大きなダメージを受けます。カチンと噛んだとき、その歯は対向する歯と早めに接触するわけで、このような状態を「中心位早期接触」と言います。 中心位早期接触は、歯列不正、歯の長年使用による磨耗などによっても起こりえますが、私たち歯科医が最も注意しなければならないのが、金属冠やレジンで歯を修復する場合です。例えば奥歯に金属冠をかぶせるとき、経験された方もいらっしゃると思いますが、薄いカーボンペーパーやワックスを何度も噛んでもらって、慎重にあたりを削っていきます。 また金属冠が正確な咬み合せで装着されたとしても、歯列全体の長年の磨耗の結果、金属の部分だけが高くなってしまうということもあり得ます。このような場合は、定期的に金属冠の部分を削って調整するしかありません。 中心咬合位早期接触があったとき、もし歯周炎があれば炎症が急速に悪化しますし、骨植のしっかりした歯だと割れたりします。またダメージは歯だけでなく、顎の関節に及んだりします。これを「顎関節症」と言います。顎関節症の病因と治療法についてはあまりにエビデンスがなく、語りづらい分野ですが、咬合が引き起こす障害として、がんばって後に書こうと思っています。 次回も咬み合せの話を続けます。

2014年1月23日木曜日

レジン修復 5

明けましておめでとうございます、と新年のご挨拶をするのも時期はずれなほど更新をさぼってしまいました。年末年始は何かと忙しく、記事を書く時間を確保するのも大変に困難でした。

さて、言い訳を語ったところで、前回の続きを書きます。前回はレジン修復の一部は保険がきかないこと、治療に長時間かかることがあることをお話ししました。他の欠点としては、まず「変色」があげられます。
適当な写真が見当たらないので、文章だけの説明になってしまいます。わかりづらくなるのをお許しください。

硬度の高いコンポジットレジンと言えども、7年も経過するとわずかに吸水して変色します。食生活によっては1年余りで変色することがあります。一般的には茶色くなることが多いようです。
研磨することで白さを取り戻すこともありますが、吸水などによって内部まで変色する場合も多く見受けられます。変色が気になる場合は、レジンの表面を削って、充填しなおす必要があります。
また、長い間機能していると摩耗あるいは咬耗も無視できません。つまり歯みがきや咀嚼の影響ですり減ってしまいます。この場合はすり減ったレジンと歯との間にギャップができ、虫歯や歯周炎の原因にもなりますから、再度充填を要することも少なくありません。
以上の2点が、たとえば金属冠やセラモメタル冠と大きく違うところです。金属やセラミックはすり減ることはまれですし、セラミックはヒビが入るなどの不測の事態以外では変色しません。


以上のように、レジン修復は決して万能の修復法ではありません。しかし・歯を削る量が少ないこと、・接着により修復した部分が新たな虫歯から守られること、・色調などもある程度歯に合わせられること、この3点の魅力は大きく、今後おそらくは適用範囲も広がってゆくだろうと思います。少なくとも私の仕事の中では確実にレジン修復を行う機会は増え続けています。